6. 不振企業は基本戦略を堅持しない

 冒頭にもふれたように、ポーターは、5つの競争要因に対処する基本戦略は、長期的に見て「コストのリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つしかないと断言しました。その上で、不振企業の多くが、いずれの戦略も採用していないか、いずれかの戦略を採用したとしても、短期間で戦略転換してしまい、一貫性がないと指摘しています。
 したがって、ファイブ・フォースによる業界分析を実施して、3つの基本戦略のいずれを選択するのかを決めることは、マネジメント上、極めて重要な意思決定と言えるでしょう。その際に、ポーターは、ファイブ・フォース以外の分析手法も活用することを勧めています。これが、前回も若干ふれた、8種類の分析技法のうちの、残り6つの技法です。以下、その中から、ファイブ・フォースとの関連で重要な「業界内部の構造分析」について、若干解説しておくことにしましょう。
ファイブ・フォースで分析した競争構造は、その業界に属する全企業に影響を及ぼす力をもちます。一方、業界内を観察すると、様々な企業が多様な戦略の元に競争を繰り広げています。そして、ある企業は、業界内でも屈指の力を持ち、またある企業は業界内の大勢の一社に甘んじています。
 同じ業界内に属しながら、どうしてこのような差が生まれるのでしょうか。ポーターは、こうした点を分析するのに、業界に属する企業を、「戦略グループ」に分類し、これによって競争環境を分析する手法を提唱しています。これが「業界内部の構造分析」です。
 戦略グループとは、業界内の企業を、戦略的な特徴を軸にしてグループ分けしたものを指します。そして同じ特徴を示す企業群が、ひとつの戦略グループを形成します。
 業界内の戦略グループを明確にするには、戦略グループ・マップを作成します(図表3)。戦略グループ・マップでは、その業界に特有の戦略変数を2種類設定します。そして、この2つの変数を縦軸と横軸に割り振り、2次元軸上の空間に業界内の企業をプロットします。さらに、類似した戦略をもつ企業群をまとめて、1つの戦略グループとして定義します。
 ポーターは、戦略グループ・マップの作成にあたり、次の点に配慮するよう指摘しています。

①軸にする変数は、移動障壁を決める要因でなければならない
②相関しない変数を選ぶ
③軸に用いる変数は連続変数や単調増加変数でなくてもよい
④戦略グループ・マップは一種類とは限らない

 ファイブ・フォースで説明したように、業界への新規参入には参入障壁がありました。同様に、ある戦略グループに属する企業が、別の戦略グループに参入する場合にも、障壁が存在します。これを「移動障壁」と呼びます。
 この移動障壁にも高低があります。移動障壁が高いほど、そのグループへの参入は困難になります。逆に、そうしたグループに属している企業は、新規参入者が少なく、競争が安定します。逆に、移動障壁の低いグループでは、常に激しい競争にさらされる格好になります。つまり、同じ業界内でも、属する戦略グループによって、競争の環境が大きく異なるわけです。これが、同じ業界に属しながら、一方は利益を享受し、他方は経営難に陥るという大きな理由のひとつになります。


スライド3

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© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2009