次に、②差別化および低コスト化を同時に実現する、について考えてみましょう。
差別化と低コスト化というキーワードから頭に浮かぶのは、前回ふれたマイケル・E・ポーターの「3つの基本戦略」でしょう。ポーターは長期的な基本戦略は、煎じ詰めると3つしかないと指摘しました。「コストのリーダーシップ」「差別化」「集中」がそれです。
コストのリーダーシップは、低コスト体質を実現することで、競合他社よりも低価格で製品やサービスを提供する戦略です。また、差別化戦略は、他の企業が持たない特色づくりに経営資源を集中して、業界内で特異なポジションを占める戦略でした。さらに最後の集中戦略では、特定の地域や購入者などに経営資源を集中します。そして、経営資源を集中した特定セグメントで、コストのリーダーシップ戦略か差別化戦略を実施するというものでした。要するに、低コストか差別化か、いずれかを選択するのが競争の戦略の基本になるわけです。
その上でポーターは、不振企業の多くが、この3つの基本戦略のいずれも採用していないか、いずれかの戦略を採用したとしても、短期間で戦略転換してしまい、一貫性がないと指摘しました。そして私たちはこの考え方を、『競争の戦略』が世に出てから四半世紀、経営戦略の基本中の基本として受け入れてきました。
一方、キムとモボルニュは「差別化と低コスト化を同時に実現せよ」と言うのです。これは明らかに、ポーターの主張に対して、真っ向から異を唱えるものです。
キムとモボルニュによると、差別化と低コスト化の同時実現とは、「買い手に対していまだかつてない価値を提供しつつ、コストを押し下げること」です。コストを押し下げるには、業界で常識となっている要素をそぎ落とすことが欠かせません。また、買い手に対していまだかつてない価値を提供するには、業界にとって未知の要素を加えることが不可欠になります。つまり差別化の推進です。
従来、価値が高まるとコストもふくらむと考えられていました。これを打破して、いまだかつてない価値=イノベーションを、低コストで提供すること、言い換えるならば「イノベーションと実用性、価格、コストなどの調和」を目指すことが、キムとモボルニュの言う差別化と低コスト化の同時実現に他なりません。
彼らはこれを「バリュー・イノベーション」と呼びました(図2)。そしてキムとモボルニュは、このバリュー・イノベーションこそが、ブルー・オーシャン戦略の土台になると指摘します。
「低コスト化か差別化か、いずれか一方を選択すべし」と言うポーター。これに対して、キムとモボルニュは「差別化を図りながら低コストを実現し、バリュー・イノベーションを創造すべし」と叫びます。この点においても、ブルー・オーシャン戦略が、従来の経営戦略の定石から、大幅にはずれていることがわかるでしょう。
このように、ブルー・オーシャン戦略が、様々な点において、従来の常識をくつがえす経営戦略だということを理解してもらえたと思います。そして、従来の正統派の経営戦略論やマーケティング論に対立する考え方であるがために、ブルー・オーシャン戦略は、これほど大きな話題をさらったと言っても、おそらく間違いではないと思います。

