2.キャズム理論のベースはイノベーション採用理論

    キャズム理論では、新製品はまず少数の進歩派によって構成される初期市場に浸透し、次に一般的な利用者からなる一般市場へと浸透していく、という考え方をベースにしています。もっとも、この考え方自体は、ムーアによるものではありません。ムーアも指摘するように、米国の社会学者エベレット・ロジャーズによる「イノベーション採用理論(普及理論)」を援用したものです。イノベーション採用理論は、経済力や知識力、冒険心などから構成される個人要因によって、新製品(イノベーション)の採用に違いが見られるという考えです(図1参照)。

 ロジャーズによると、一般的に新製品は、まず市場全体の2.5%といわれる「イノベーター(革新的採用者)」によって採用されます。これが「アーリー・アダプター(初期採用者)」(13.5%)に浸透し、さらには「追随者」すなわち一般市場へと進展する過程をとります。追随者には2種類あって、比較的初期に採用する追随者を「アーリー・マジョリティ(初期多数採用者)」(34%)、さらに世間の様子をうかがって慎重に採用する「レイト・マジョリティ(後期多数採用者)」(34%)に分かれます。そして製品は、最後に「ラガード(採用遅延者)」(16%)に浸透します。

 このように、ロジャーズのイノベーション採用理論では、市場を構成する層を5つに分けます。そして、冒険的な利用者から、だんだん一般的な利用者に製品が普及していくと指摘しているわけです。その中でも注目すべきが、イノベーターとアーリー・アダプターの存在でしょう。

 イノベーターは、言葉を換えると新しいもの好き、ハイテク製品で言うと、実用性や合理性よりも、技術の目新しさを評価する人々です。どちらかというと、「テクノ・オタク」という呼び方がピッタリとくる人たちで、彼らは画期的なイノベーションが開発されると、手に入れて使ってみないことには気が済みません。そして、その新製品が技術面で秀でてさえいれば、実社会での用途が限られていたとしてもあまり気にしないという傾向を持ちます。

 一方、アーリー・アダプターは、単に技術面に詳しいのみならず、その製品が実用的かどうかを判断し、社会にどういった影響を及ぼすのかをいち早く見抜く目をも持ちます。つまり、技術面と社会面双方から、その製品の価値を総合的に判断します。ですから、技術的に秀でていても、実社会での実用性に欠けるものは、彼らの眼鏡にはかないません。ちなみに、近年のハイテク業界では、こうした人々のことを「ギーク」と呼んでいます。

 したがって、新製品が市場に浸透するか否かの最初の関門は、このアーリー・アダプター(ハイテク業界の場合ならばギーク)に受け入れられるか否かにかかっていると言っても過言ではありません。そして、新製品がイノベーターからアーリー・アダプターへと普及すると、新製品の導入はひとまず成功です。そうなると、「いま話題の新製品」などの打ち出しで、一般メディアにも情報が掲載されるようになります。

 ちなみに、現在、セカンドライフが新聞紙上や雑誌誌上を賑わしています。ご承知のように、セカンドライフはインターネット上の仮想空間で、利用者は自分の分身を作り、仮想空間の中であたかも第二の人生かのような暮らしをします。現在のセカンドライフは、まさにイノベーターからアーリー・アダプターへと浸透しだし、メディアが取り上げるようになった段階と言えるでしょう。
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© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2009