3.初期市場と一般市場の間に横たわる深い亀裂

 新製品がアーリー・アダプターに浸透しだしたこの段階では、新製品自体が一般にとって目新しいため、大きな注目を集め期待も高まります。そのためか、それほど話題のある新製品ならば、比較的容易に、アーリー・アダプターから多数の追随者が控える一般市場へと浸透していくかのように考えるのが普通でしょう。

 ところがムーアは、このアーリー・アダプターと追随者の間に、大きな裂け目、すなわち「キャズム」が広がっていると指摘します。そして、従来、多くの新製品が一般市場に浸透しなかったのは、このキャズムを乗り越えられなかったからだと、ムーアは主張します。ハイテク製品を例にとって考えると、その原因は次のように説明できます。

 ハイテク製品のアーリー・アダプターは、基本的にテクノロジーに詳しい人たちです。そして彼らは、テクノロジーを用いて積極的に変革を試みるという特徴を持ちます。したがって彼らは、製品が少々使いにくくてもあまり気にしません。むしろ、それを何とか克服して、現実の社会にうまく適用させようとします。

 これは、10数年前にオフィスでパソコンを使いだしたホワイトカラーをイメージすればよいでしょう。グラフィカル・ユーザー・インターフェイスが一般的でなかった当時、パソコンは決して使いやすい代物ではありませんでした。しかし、アーリー・アダプターたちは、これを何とか一般的な仕事に活用しようとしたものです。

 同様のことは、インターネットでも言えます。インターネットが普及し始めた当初、ルーターの設定やドライバーの設定など、かなりやっかいでした。アーリー・アダプターは、こうした困難を乗り越えて、インターネットが持つ潜在的パワーを、実社会に活用しようとしたものです。

 その一方で、アーリー・マジョリティを先頭にする追随者は、基本的にテクノロジーに詳しくありません。また、興味もないのが一般的です。彼らの興味は、その新製品が自分の生活の利便性向上にどう貢献するのか、その新製品が企業の利益にどうつながるかを注意深く検討します。つまり、新製品そのものが持つ技術的な魅力や社会的な影響よりも、実利が最優先課題になるわけです。加えて、テクノロジーに詳しくはありませんから、誰でも手軽に使えるという点も、その製品を選択する上での重要な意思決定ポイントになります。したがって、追随者に新製品を浸透させるには、それがとてつもなく使いやすいこと、実利に直結すること、これを彼らに納得させなくてはなりません。

 ところが、多くの新製品では、こうした追随者への対処を怠っていたとムーアは指摘します。その結果、追随者に新製品を浸透させることができず、アーリー・アダプター止まりで市場から消えたと言います。つまり、追随者の市場へ製品を波及させるには、アーリー・アダプター向けとは異なる戦略が不可欠だということです。そして、この戦略構築に失敗すると、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティの間にポッカリと口を開けるキャズムにはまり込み、その製品はやがて市場から消え去るわけです(図2参照)。
冒頭でブログやSNSについてふれましたが、両者がこれほど人気になった最大のポイントは、HTMLなど従来のホームページづくりに必要だった専門知識ばかりか、HTMLファイルを作成するためのソフトさえ不必要だという点です。まさに初心者でも簡単にコンテンツを作成し、ネット上に公開できる点が大いに受けたわけです。

 加えて、コンテンツ自体も日記や友人との語らい、友達作りなど、テクノロジーのイメージからはほど遠い、極めて一般生活に密着した内容でした。これらの特徴により、アーリー・アダプターに止まらず、アーリー・マジョリティやレイト・マジョリティにまで利用者のすそ野を広げたことが、いまのブログやSNSの人気を支えていると言えそうです。ブログやSNSはテクノロジーの固まりですが、キャズムに陥るのをうまく回避したわけです。

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© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2009