ところで、トヨタ生産方式に見られる「カイゼン」では、制約条件に特化するというよりも、社員全員がムダ、ムリ、ムラを省くための対策を提案し実行することに重きが置かれます。いわば、組織全体でパフォーマンスの底上げをはかろうとするのが、従来のカイゼンの考え方と言えるでしょう。
しかし、制約理論では、部分最適化を前提にした全体の底上げは、それ自体が幻想ということになります。というのも、全体がボトムアップされたとしても、ボトルネックが解消されないことには、全体最適化は望めないからです。このように、制約理論の考え方の根底には、従来のカイゼン活動と微妙にズレがあることを理解しておくべきです。
また、システム全体に占めるボトルネックの割合は、極めて小さいのが特徴です。たとえば、先の鎖の場合、輪が20個あれば、ボトルネックはその20分の1、100個あれば100分の1です。仮に100個の場合、制約理論ではこの1%の改善なくして、全体のパフォーマンスの強化はない、という立場をとります。逆に、たった1%を改善することで、飛躍的に能力アップをはかれることもあり得るわけです。
一方、ビジネスの現場では、よくパレートの法則が引き合いに出されます。これは、20対80の法則とも言われるもので、元々は「お金持ちのトップ20%が、全体の富の80%を占める」という、所得分布の経験則を指しました。これが所得分布以外にも用いられるようになり、たとえば「トップ営業マンの上位20%が、会社全体の売り上げの80%を稼ぎ出す」とか「売れ筋の上位20%が、売り上げ全体の80%を占める」などと言われるようになります。制約条件という言葉を用いるならば、「制約条件の上位20%が、問題全体の80%を占める」とでもなるでしょう。
ところが、制約理論の場合、全体最適化を実現するには、全体の20%どころか、優先順位トップの制約条件に着目し、それを改善せよと指摘するわけです。よって、制約理論の考え方は、パレートの法則とも一線を画すものだと理解するべきです。