今回から数回にわたってイノベーションに関するビジネス理論について紹介したいと思います。イノベーションについては、様々な論客が語っていますが、中でもその重要性を最初に指摘したのは、この連載でも繰り返し言及しているピーター・F・ドラッカーでしょう。
ドラッカーのイノベーション論に関しては、この連載の第1回目で若干紹介しました。とはいえ、極めて基本的な点を紹介したに過ぎないので、今回は、イノベーションに関してドラッカーが何を指摘したのか、より詳細に解説したいと思います。
ドラッカーのイノベーション論をより深く理解しようと思ったとき、まず理解しなければならないのがドラッカーのマネジメント論です。ドラッカーは著書『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社、1999年)で、マネジメントの定義を極めて簡潔に掲げています。
「組織をして成果を上げさせるための道具、機能、機関がマネジメントである」。
あらゆる組織は社会的な機関です。すなわち、社会や組織、個人のニーズを満足させるために存在します。とはいえ、一つの組織が、あらゆるニーズに対応することはできません。したがって組織は、ニーズを特定し、それに対応することが求められます。ちなみに、特定したニーズに対応しようとするこの意志こそが、その組織の使命です。そして、この使命を達成することが、その組織の成果に他なりません。
ドラッカーは、組織がこの目的を達成するために、マネジメントが持つべき機能は、たった2つしかないと断言します。マーケティングとイノベーションがそれです。
マーケティングとは、「顧客というものをよく知って理解し、製品(ないしはサービス)が『顧客』に『ぴったりと合って』、ひとりでに『売れてしまう』ようにすること」です。この定義からも、マネジメントの目的であるニーズへの対応に、マーケティングが欠かせないことがよくわかります。
とはいえ、ニーズ対応型のマーケティングに終始していては問題です。ドラッカーが指摘するように、それでは「手数料の形で報酬を受け取る『仲立人(ブローカー)』か、ないしは価値を生まない『投機者』にすぎない」からです。
そこで重要になるのがイノベーションです。イノベーションとは、顧客に対していままでとは異なる経済的満足を与えることです。言い換えるならば、「人的・物的・社会的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすこと」です。
マネジメントの命題である、顧客のニーズに対応し続けるということは、言葉を換えると、顧客を創造し続けることに他なりません。よって、目の前の顧客に対してはマーケティングで対応し、将来的な顧客に対してはイノベーションで対応するという、この両輪が欠かせません。つまりマネジメントは、マーケティングという短期的視野およびイノベーションという中長期的視野をもって、組織の成果を上げるよう工夫しなければならない、ということです。
では、具体的にイノベーションを実現するにはどうすべきでしょぅか。これに対してドラッカーは、イノベーションの機会を見つけ出し、それを有効に活用することが不可欠だと説きます。その上でドラッカーは、イノベーションのための機会は7つあると指摘しています。下記の通りです(図表1)。
①予期せぬことの生起
②ギャップの存在
③ニーズの存在
④産業構造の変化
⑤人口構造の変化
⑥認識の変化
⑦新しい知識の出現
これら7項目は、一般的に「イノベーションの7つの機会」と呼ばれています。なお、この①~⑦は、イノベーションのための機会として、信頼性・確実性の高い順に並んでいる点に留意が必要です。以下、各項目について説明を加えましょう。