「マーケティングとは何か」を知ろうとするとき、あらかじめ理解しておかなければならないことがあります。それは「マネジメント」とは何か、ということです。
マネジメントとマーケティングの関係は、この連載記事の第一回目「ピーター・ドラッカーの『マネジメント論』の基本の基本」ですでに若干ふれました。とはいえこの点は、マーケティングの本来の意味を知る上で極めて重要です。そこで、やや重複しますが、ここではまずドラッカーが指摘したマネジメント論の基本を再確認しましょう。その上で、マーケティングとは何なのかを考えたいと思います。
ドラッカーはマーケティングを「組織をして成果を上げさせるための道具・機能・機関」と定義しました。あらゆる組織とは社会の機関です。そうである以上、社会の機関としての組織は、社会やコミュニティ、個人に対して何ならかのニーズに応えなければなりません。したがって、「社会やコミュニティ、個人のニーズに応える」という成果を、組織に上げさせるための道具・機能・機関がマネジメントだと言い換えられるでしょう。
一方、企業も組織の一形態であることは論を待ちません。よって、企業のたった一つの目的、存在理由も、社会やコミュニティ、個人のニーズに応えるということになります。もっと平たく言うと、顧客を創造し続けること、これこそが企業にとって唯一の目的、ただ一つの存在理由として位置付けられるわけです。
そしてドラッカーは、顧客を創造し続けるために、企業が持つべき機能としてマーケティングとイノベーションを位置付けました。ドラッカーは「マーケティングの狙いは、顧客というものをよく知って理解し、製品が顧客にぴったりと合って、ひとりでに売れてしまうようにすること」と定義しています。つまりドラッカーの論にしたがうと、顧客のニーズを知ること、あるいはひとりでに売れる仕組みを構築すること、これがマーケティングという語がもつ本来の意味になります(図表1)。

上記の定義自体はドラッカーの「マネジメント」(1970年、ダイヤモンド社)から引用したものですが、同様の言葉は「現代の経営」(1954年、ダイヤモンド社)にもすでに見られます。つまり、いまから50年以上も前に、マーケティングの基本的な位置付けはなされていたと考えても差し支えないでしょう。
なおドラッカーは、「創造する経営者」(1964年、ダイヤモンド社)の中で、マーケティングを次のような言葉で規定しています。すなわち、「買わないことを選択できる第三者に、喜んで自らの購買力と交換してくれるものを提供する活動」と言うのです。こちらの定義も前者同様、マーケティングの本質を言い当てた名言です。
とはいえ、顧客のニーズばかりに注目していたのでは、企業は立ちいかなくなります。というのも、単に顧客のニーズに対応しているだけでは、企業は顧客と製品との関係を取り結び、そこからマージンを抜いているだけに過ぎないからです。特に環境が大きく変化する社会では、顧客のニーズも大きく変化します。企業としては、目まぐるしく変わるニーズに対応するばかりでなく、自ら顧客の新たな満足を実現する価値を創造していかなければなりません。いわば、前回もふれた「チェンジ・リーダー」にならなければいけないということです。
そこで重要になるのがイノベーションです。これは、人的資源や物質的資源に対してより大きな富を生み出す新しい能力をもたらす力のことです。顧客の新しい満足感を創造し充足させること、と言い換えてもいいでしょう。このように、マーケティングとイノベーション、双方のバランスをとることがマネジメントの大きな課題になるわけです。
また、以上のように検討を進めてくると、マーケティングが企業の活動の中で独立して存在するのではないということがよく分かります。マーケティングはあくまでも、マネジメント活動の一部です。とりわけ、イノベーションと組み合わさった、マネジメントの両輪の一つなのです。マネジメントという大きな枠組みの中で、マーケティングがいかに位置付けられているのかを整理する上で、ドラッカーの説は非常に重要な考え方だと理解すべきでしょう。


