少々話が脇道にそれたが、企業の目的は顧客の創造である。そして、マネジメントは、この顧客の創造を高めるよう機能しなければならない。では、具体的にどのような機能が求められるのか。
この問いに対してドラッカーは、次のように答えている。「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には2つの基本的な機能が存在することになる。すなわち、マーケティングとイノベーションである*5」。
顧客創造とは、すなわち顧客のニーズを満足させることに他ならない。一方、マーケティングとは、顧客のニーズを探り、顧客が満足する価値を提供する活動だ。ドラッカーの言葉を借りると、マーケティングとは、「顧客というものをよく知って理解し、製品(ないしはサービス)が『顧客』に『ぴったりと合って』、ひとりでに『売れてしまう』ようにすること*6」である。したがって、企業の唯一の目的である顧客創造には、マーケティングが欠かせない。
余談ながら、近年、マーケティングの世界では「顧客志向」が声高に叫ばれている。一方、ドラッカーが上記のような顧客志向のマーケティングを指摘したのは、1950年代半に出版した『現代の経営』でだ。この一点からだけでも、ドラッカーの“観察力”には改めて驚かされてしまう。
さて、顧客の創造には、顕在的なニーズに対応するだけでなく、いままでとは違った価値を創造することで顧客を創り出していくことも不可欠になる。これがイノベーションだ。
一般にイノベーションは技術革新と訳されるように、新たな技術開発によって新しい価値を創造することと解釈されがちだ。しかし、イノベーションは、技術のみに特化した革新ではない。
たとえば、極北に暮らす人に対して冷蔵庫を販売するとしよう。これは一見非常識のように思える。しかし、食料が凍てつかぬようにするための道具として冷蔵庫を販売することに成功したとしても、冷蔵庫自体に技術革新はまったくない。しかし、顧客の新しい満足を創り出したという点で、これも立派なイノベーションのひとつになる。
マーケティングとイノベーションはあたかも自動車の両輪のように機能する。マーケティングなくして、企業の短期的な事業に成果をもたらすことはできない。また、イノベーションなくして、企業の長期的な成果は約束されない。そして、この自動車のハンドルを握るのが企業のマネジメントであり、その進むべき方向を示すのが、その企業の戦略だ。

