2. 現代社会の断絶は知識社会への移行

 ドラッカーが社会生態の観察から発見した新しい現実は、組織社会やマネジメントだけではない。これ以外にも、多岐に渡る重要な発見や提言を行なっている。「分権制」もその一つだ。これは一般的に「事業部制」とも呼ばれるもので、企業が有する個別の事業ごとに最大限の権限と独立および責任を与えるとともに、中央政府たる本社経営陣が全体を統合して一体性を保持する組織体制を指す。

 また、1969年に出版された『断絶の時代』では、政府が国営の事業を手放して、民間に開放・委譲する「民営化」の必要性を唱えている。当時世間では、政府事業の民営化などあり得ないと評した。しかし、イギリスのマーガレット・サッチャーが1979年に首相に就任すると、ドラッカーの発案と断った上で、イギリスの政府事業の大胆な民営化に着手する。その後、民営化の手法は、世界中の政府が採用するようになり、現在でもそのトレンドに変わるところはない。

 さらに『乱気流時代の経営』(1980年)の中でドラッカーは、ソビエト連邦の現実を観察する。そして、同国の先進的な欧州部と後進的なアジア部との対立が避けられないとした上で、「今世紀の残りを通じて、ソ連という国家の存続そのものが疑問になるかもしれない*2」とまで言い切った。ちなみに、同書が出版された80年は、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して、日米など世界53カ国がモスクワ・オリンピックをボイコットした年だ。大国ソ連が力を振るうこの時期に、その強さを真っ向から否定する論陣を張り、やがてそれは現実のものとなるのだから、ドラッカーの未来を見る目には驚かされる。

 このように、社会を観察することで、人が気付かないことを看破したドラッカーは、現代社会が「知識社会」に移行していると、多くの著作で再三主張してきた。「今や知識は、資本と労働をさしおいて、最大の生産要素となった。しかし、まだわれわれの時代を『知識社会』と呼ぶには、時期尚早である(傲慢でさえある)。われわれはいまだ、『知識経済』をもつにすぎない*3」。ドラッカーが指摘する知識社会がやがて本格的に到来するのならば、その社会の特質をあらかじめ理解し、適切な対策をとっておけば、将来のリスクを上手くマネジメントできる可能性が非常に高まるだろう。


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© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2009