第1講 
これだけは知っておきたい
“ドラッカーのマネジメント論”

『これでわかるビジネス戦略講座[1]』収録


CONTENTS

ピーター・ドラッカーの生涯    著作物の体系と概要

ドラッカーのマネジメント論 ぜひ知っておきたいその基本

マネジャー=経営管理者とは 一体誰のことを指すのか

マネジャーが最初に実行すべき 目標と自己管理のマネジメント

マネジメントを実行する人 その仕事と課題を明らかにする

技術開発や発明ばかりがイノベーションではない

新たな価値創造のためのイノベーションの七つの機会



ピーター・ドラッカーの生涯
著作物の体系と概要


 マネジメントを発明した男、ピーター・フェルディナンド・ドラッカーがこの世を去ったのは2005年11月11日のことです。ドラッカーは、オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンで1909年11月19日に生まれましたから、ほぼ96年という長寿を全うしたわけです。

 ドラッカーの家系は代々、政府関係者や大学教授などを輩出する家柄で、ドラッカーの父親も帝国政府の外国貿易省長官の職に就いていました。そのため家庭は比較的裕福だったようです。とはいえ、ドラッカーが物心ついた頃は、第一次世界大戦、未曾有のインフレーションの真っ只中です。苦難の幼少時代を過ごしたことは、容易に想像できるでしょう。

 ギムナジウムを卒業したドラッカーは、ハンブルクで貿易商社の見習いになります。同時にハンブルク大学に入学し、昼間は仕事、その後で勉強という二足の草鞋をはきます。その後、フランクフルト大学に転入し、新聞記者や大学助手などの職に就きました。そして、ヒトラーの弾圧を避けイギリスへ。さらに28歳の時に終の棲家となるアメリカへ移住します。ドラッカーの名が世界に轟くのは、このアメリカ移住以降の約70年間のことです。

 この間にドラッカーは、大量の著作を世に送り出しました。これらの著作は大きく2系統に分類できます。①政治・社会・経済関連の著作、②経営・組織関連の著作がそれです。

 まず、①政治・社会・経済関連の著作ですが、こちらには処女作『経済人の終わり』(1939年)に始まり、還暦の歳に世に出した『断絶の時代』(1969年)、年金基金の重要性を説いた『見えざる革命』(1976年)、ソ連崩壊を予言した『乱気流時代の経営』(1980年)、さらには『新しい現実』(1989年)や『ポスト資本主義社会』(1993年)などが含まれます。

 これら政治・社会・経済関連の著作でドラッカーは、未来社会を予言し、それをいくつも的中させました。したがって、これらはドラッカーの未来社会論系著作としても位置付けられるでしょう。

 もう一方の②経営・組織関連の著作は、日本でもお馴染みのものが多いのが特徴です。世界で最初にマネジメントを総合的に扱った『現代の経営』(1954年)、事業戦略について述べた『創造する経営者』(1964年)、成果を上げるための手法についてふれた『経営者の条件』(1966年)、ドラッカーのマネジメント論を集大成した『マネジメント』(1973年)などが、その代表作です。

 また、イノベーションの実践手法を扱った『イノベーションと企業家精神』(1985年)、非営利組織のマネジメントに焦点を絞った『非営利組織の経営』(1990年)、21世紀のマネジメントを扱った『明日を支配するもの』(1999年)など、晩年まで多数の著作を世に送り出しています。このように、こちら②の系統はドラッカーのマネジメント論としての性格が強いのが特徴です。

 なお、これら①と②の中間に位置する著作物もあります。それらの多くが、雑誌に掲載した論文をまとめて一冊の著作にしたものです。『マネジメント・フロンティア』(1986年)、『未来企業』(1992年)、『未来への決断』(1995年)、『ネクスト・ソサエティ』(2002年)などがこれに該当します。

 以下、本稿では、②経営・組織関連の著作、中でもドラッカーのマネジメント論の根幹をなす『現代の経営』と『マネジメント』を中心に、ドラッカーが説くマネジメント論の基本について解説することにしましょう。




ドラッカーのマネジメント論
ぜひ知っておきたいその基本


 かれこれ20年も仕事をしてきた方ならば、「マネジメント」という言葉を繰り返し使ってきたことでしょう。

 しかし、「マネジメントとはどういう意味なのか?」と突然訊かれたとしましょう。皆さんならばどのように回答されますか。「部下を管理することがマネジメントである」あるいは「マネジメントとはトップのことを指す」などの回答が返ってくるかもしれません。確かに、もっともらしい答えですが、本当にこれで正しいのでしょうか。

 日頃使い慣れているマネジメントという語ながら、いざ、その意味を説明しようと思うとなかなか難しいものです。

 実際ドラッカーも「マネジメントという語は、奇妙なほどに難しい言葉である[1]」と述べています。

 しかし、定義が難しいからといって、そのまま放置することもできません。そこで、ドラッカーがマネジメントをいかに定義したのか、まずはその点からふれることにしましょう。

 ドラッカーはマネジメントを次のように定義しました。

 組織をして成果を上げさせるための道具、機能、機関。[2]

 もっとも、この一言からマネジメントの本質を深く理解するのは少々困難と言わざるを得ません。理解をより深めるには、ドラッカーの言わんとする「組織」について知る必要があります。

 ドラッカーは、あらゆる組織は社会の機関として位置づけました。そして、組織が社会の機関である以上、社会やコミュニティ、個人のニーズを満たすために存在しなければならないと指摘します。

 逆に言うと、社会やコミュニティ、個人のニーズを満たさぬ組織は、存在する必要がないということです。そして、組織が社会やコミュニティ、個人のニーズを満たすというミッション(使命)を達成し、その成果を上げるために存在するのが、ドラッカーの言うマネジメントなのです。

 では、ドラッカーのこの考え方を、組織の一形態である企業にあてはめて考えてみましょう。ドラッカーの考えからすると、社会やコミュニティや個人のニーズを満たすことが企業のミッション、社会機関としての企業の存在理由になります。

 企業にとって社会やコミュニティ、個人は、ひとくくりに「顧客」と表現できるでしょう。したがって、企業は顧客のニーズを満たし続けなければなりません。

 これは言い換えると、顧客の創造(to create a customer)が企業にとって唯一の目的になるということに他なりません。そして、この顧客創造のために企業がもつべき機能はたった二つだけだとドラッカーは指摘します。マーケティングとイノベーションがそれです。

 マーケティングとは、顧客のニーズを探り、対応する製品やサービスを提供する機能です。一方、イノベーションとは、顧客の新しい満足を創り出していく機能を指します。したがって、企業のマネジメントは、このマーケティングとイノベーションという二つを有効に機能させることが、最重要の命題となるわけです。

 以上がドラッカーのマネジメント論の基底をなす部分です。いまやマネジメントやマーケティング、イノベーションは別個の経営テーマとして語られることが多いようです。しかし、ドラッカーのマネジメント論では、それらは個別に存在するものではなく互いに補いあう存在、言い換えると、マーケティングとイノベーションという両輪をマネジメントというハンドルで、企業目的に向かわせるものなのです。

 また、以上からもお分かりのように、マネジメントとは、部下の管理のみを指すのではありません。また、トップ・マネジメントのみを指すわけでもなければ、権力やボスの意味でもありません。組織をして成果を上げさせるもの、それがマネジメントなのです(図表1)。


図表 1 マネジメントの基本的なあり方

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マネジャー=経営管理者とは
一体誰のことを指すのか


 次にマネジメントを実行する人、すなわちマネジャーについて考えてみましょう。マネジャーという語は本来「経営管理者」と訳されるべきものです。しかし、このように表現すると、どうしても企業のトップ・マネジメントのニュアンスが強くなります。

 一方、野球やサッカーといった体育会系クラブにもマネジャーは存在します。ここで用いられているマネジャーは、どちらかというと主役の仕事を支える裏方さんという意味合いが強いようです。さらに会社の中で単にマネジャーと言った場合、一般に「部下を管理する人」と考えられがちです。

 しかしながら、先に見たマネジメントの定義を前提にするとマネジャーの意味は全く異なるものになります。一言で言うと「マネジメントを実行する人」、そのような人すべてをマネジャーと呼びます。では、マネジメントを実行するとはどういうことなのでしょうか。

 マネジメントとは、組織をして成果を上げさせることでした。となると、「マネジメントを実行する」とは、組織が上げるべき成果に責任を持つことに他なりません。したがって、組織の成果に責任を持つ人、これがマネジャーということになります。

 仮に皆さんが部課の長、グループの長に就いているとしたならば、部課やグループが上げるべき成果に責任を持っているはずです。また、部下がいなくても、組織の成果に対して何らかの責任を持っているはずです。

 このように、組織が上げるべき成果の一部にでも責任を持つ人ならば皆マネジャーすなわち経営管理者の一人なのです。




マネジャーが最初に実行すべき
目標と自己管理のマネジメント


 自分自身がマネジャーだと認識したならば、まっ先に実行しなければならないことがあります。「目標と自己管理のマネジメント」がそれです。通称「目標管理」と呼ばれるこのマネジメント手法は、ドラッカーのマネジメント論の中でも、おそらく最も著名な経営コンセプトの一つです。

 ドラッカーの説く目標管理とは、組織の目標に基づいて自分自身が貢献すべき領域を明らかにし、その領域でいかなる成果を上げるのか、自らの目標を設定し、その目標達成に責任を持つことを指します。

 例えば部課やグループのマネジャーの場合、まず組織の使命と目標を理解し、そこから自らの部課やグループの目標を明らかにします。そして、マネジャー自身の目標を設定するとともに、部課やグループに属する他のメンバーについても、個々の目標を明確にさせます。その上で各々が、自ら設定した目標に対して責任を持つわけです。

 目標を設定するということは、それを達成するための強い動機付けとなります。また、あらかじめ目標を設定することで、期待する成果を得られたのかどうか、事後検証が可能になります。

 さらに、マネジャー自身やその部下が、自分の設定した目標を達成すれば、それすなわち個人および部課やグループの成果になります。そして、その成果は組織全体の目標から導き出されたものですから、組織の成果とも整合性がつきます。

 このように、目標管理には多様なメリットがあります。したがって、目標を意識して行動することが、マネジャーが第一に実行すべきことだと言っても過言ではないでしょう。

 ちなみに、現在広く実行されている成果主義にもこの目標管理が利用されていることは周知の通りです。これは現代のマネジメントにも、ドラッカーの提唱した考えが脈々と息づいている証左と言えるでしょう。


マネジメントを実行する人
その仕事と課題を明らかにする


 目標管理を実行することは、マネジャーとしての責務です。とはいえ、これは最低限実行すべきことであり、その上で設定した目標を達成するための方策を持たなければなりません。

 これに対してドラッカーは、実行すべき5つの活動を掲げています。①計画、②組織化、③統合、④測定、⑤体系的廃棄がそれです(図表2)。

 

図表 2 マネジメントの五つの活動

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①計画

 まず設定した部課やグループの目標に対して、目標達成のための機会を明らかにします。よりかみ砕いて言うと、製品や市場、流通チャネルなどについて、推進すべき最優先領域、優先的に廃棄する領域、推進も意図的廃棄もそれほど効果のない領域、これら3つを明らかにするということです。これは優先すべき仕事、全く優先しない仕事を明らかにする作業でもあります。


②組織化

 目標達成のための優先領域が明らかになったら、続いて優先順位の高い機会に、優秀な人材を配置します。ここでは、強制選択という手法が役に立ちます。これは、人材に強制的に順序を付けると同時に、優先領域の機会にも順序を付けます。そして、優先順位の高い機会に、優秀な人材を強制的に割り振っていくという手法です。私情をはさむ余地がないところがこの手法の特徴です。なお、最もいけないのは、優秀な人材を些末な仕事に振り向けることです。これでは部下やグループの高い成果は望めません。


③統合

 続いて人材の動機付けと円滑なコミュニケーションを推進します。そして、部課やグループの統合をはかります。この段階でクローズアップすべきなのが、先にもふれた目標管理です。

 まずマネジャーが部門やグループの明確な目標を掲げます。次にその目標に従って、個々のメンバーが自身の目標を設定します。そして、自他が自身の目標を相互に明らかにするとともに、食い違いがあれば互いに修正します。つまり目標をベースにメンバーの動機付けを実行するとともに、目標をベースにしてグループ内の円滑なコミュニケーションを実現するわけです。

 

④測定

 さらに④測定でも、目標管理を活用します。すなわち、設定した目標と実績を比較して、達成した成果の度合いを測定するわけです。なお、測定と評価の際には、中立的であること、成果に焦点を合わせること、測定不能な対象に対しても適用できるようにすること、これら3点が重要になります。そして、測定評価した結果は、新たに設定する目標にフィードバックします。      

 いずれにしろ、目標がなければ評価も測定もフィードバックもできません。このようにここでも目標管理が重要な役割を果たすことが分かると思います。


⑤体系的廃棄

 上記①~④は、マネジャーが時系列で進める活動です。一方、これらの活動と並行して実行すべきことがあります。体系的廃棄がそれです。これは、古くさくなったものを体系的に廃棄する仕組みを構築することを指します。

 具体的には、①現在実行しているものについて改善策を考える、②成功しているものについては応用法を考案する、③古くさくなったものを捨て、新しく違ったものを考案する、という一連の活動です。

 特に③では、現在行っていることを実行していないと仮定し、いまからでも実行するかを考えます。そして、実行しないものは即座に廃棄します。

 いま新しいものでも、いつかは陳腐化します。生産的でなくなったものを、いつまでもぐずぐず所有していると、生産性向上の足かせになることは言うまでもありません。そうならないためにも、古くなったものを自ら進んで廃棄し、それに代わる新たなことを考えることも、マネジャーに課せられた重要課題の一つなのです。


技術開発や発明ばかりが
イノベーションではない


 以上、マネジャー=経営管理者は、組織の目標を理解した上で、部課やグループが貢献すべき成果を明らかにするとともに、その成果を達成するために、計画→組織化→統合→測定を実践し、並行して体系的廃棄を実行する、ということを理解していただけたと思います。

 ところで、ドラッカーのマネジメント論の基本について解説した個所で、企業が顧客の創造という使命を果たすために必要な機能は二つしかないと述べました。すなわち、マーケティングとイノベーションがそれです。

 一方、上記の計画→組織化→統合→測定および体系的廃棄は、広義ではマーケティング活動の一環に位置づけられるでしょう。マーケティングとイノベーションという両輪をコントロールして、企業の目標に向かわせるのがマネジメントです。したがって、マネジメントを実行するマネジャーたる者、上記の活動のみならずイノベーションの推進にも常に目配りする必要があります。

 一般にイノベーションは技術革新と訳されるように、新たな技術開発によって新しい価値を創造することと解釈されがちです。しかし、イノベーションとは、技術のみに特化された革新ではありません。

 例えば、極北に暮らす人に対して冷蔵庫を販売するなどは、一見非常識に思えるかもしれません。しかし、食料が凍らぬようにするために冷蔵庫が利用されたとしたらどうでしょう。この場合、冷蔵庫自体に技術革新は全くありません。しかし、顧客の新しい満足を創り出したという点で、これも立派なイノベーションの一つになります。

 このように、技術革新のみがイノベーションではありません。ドラッカーはイノベーションには、①製品のイノベーション、②社会のイノベーション、③管理のイノベーション、大きくこの三つの領域があると指摘しました。

 ちなみに、②は消費者の行動や価値観を変えるようなイノベーションを指し、極北に住む人に冷蔵庫を販売する行為は、このカテゴリーに属するでしょう。また、③は製品やサービス提供に不可欠な各種技能と活動面においての革新を指します。トヨタ自動車の「カイゼン」は、管理のイノベーションの一例と言えるでしょう。


新たな価値創造のための
イノベーションの七つの機会


 次に問題となるのが、「では、いかにイノベーションを推進していくのか」ということです。これに対してドラッカーは、「イノベーションの七つの機会」なるものを提唱しています。以下に記す七つの機会を体系的に探し出せる体制を構築することで、イノベーションの推進は誰にでも実行できるようになると、ドラッカーは言います。

 それは、①予期せぬことの生起、②ギャップの存在、③ニーズの存在、④産業構造の変化、⑤人口構造の変化、⑥認識の変化、⑦新しい知識の出現、の7項目です。これらが身の回りに存在しないか日頃から注意深く検証し、イノベーションの機会に目を光らせることが重要になります。

 このイノベーションの七つの機会は、機会としての信頼性と確実性の高い順に並んでいるという特徴があります。したがって先頭にある①予期せぬことの生起が、最も重要なイノベーションの源泉となります。

 なお、イノベーションの七つの機会については、本講座「No.012 ビジネスの新たな機会をガッチリつかむ ドラッカーのイノベーション論」に詳しい解説があるので、そちらを参照ください。

 以上、ドラッカーのマネジメント論の基本とマネジメントを推進する具体的手法のいくつかについて述べました。マネジメントは限られた人のみが実行するものではありません。組織の成果の一部に対して責任を負っている人ならば、誰もが実行しなければならないのです。この点はくれぐれも肝に銘じておきたいものです。




 

参考文献

PF・ドラッカー著、野田一夫、村上恒夫監訳『マネジメント(上)』(1974年、ダイヤモンド社)

PF・ドラッカー著、古林宏治監訳、上田惇生、佐々木実智雄訳『イノベーションと企業家精神』(1985年、ダイヤモンド社)

PF・ドラッカー著、上田惇生訳『明日を支配するもの』(1999年、ダイヤモンド社)            

中野明『ピーター・F・ドラッカーの「マネジメント論」がわかる本』(2005年、秀和システム)


[1] PF・ドラッカー著、野田一夫、村上恒夫監訳     『マネジメント(上)』   (1974年、ダイヤモンド社) P6

[2] PF・ドラッカー著、上田惇生訳『明日を支配するもの』       (1999年、ダイヤモンド社)  P45

© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2016