第4講 
競争に勝つための戦略①
ポーターのファイブ・フォース

『これでわかるビジネス戦略講座[1]』収録


CONTENTS

「競争」というキーワードを メジャーにしたポーター

経営戦略論のバイブル 『競争の戦略』

ファイブ・フォースで 業界内の競争環境を分析する

五つの競争要因がもつ それぞれの特徴を理解せよ

ファイブ・フォース分析から 自らの競争戦略を構築する



「競争」というキーワードを

メジャーにしたポーター


 現代社会は競争社会、このように呼ばれて久しくなりました。確かに人は、生まれてから死ぬまで、常に競争にさらされています。いまや中学入試はもちろんのこと、小学校入試も過熱気味です。また、少子化により大学全入時代を迎えたとはいえ、一部有名大学の競争率は高止まり状態です。

 さらに、新卒の就職氷河期は若干和らいだものの、“良い会社”に入ろうと思うと、激しい競争を勝ち抜かなければなりません。加えて、入社することが、人生のゴールでもありません。その後は、昇進という、新たな競争が待ち受けています。

 もちろん、競争にさらされているのは、何もヒトばかりではありません。企業自身もそうです。自由市場で生き抜くことは、まさに競争に他なりません。

 となると企業は、この競争を有利に進めるための戦略をもたなければなりません。そして、企業の市場における行動を競争ととらえ、その環境を分析し、適切な戦略を構築する術を明らかにしたのが、経営学者マイケル・E・ポーターです。

 ポーターは、米国ミシガン州に海軍キャリアの子供として生まれました。プリンストン大学卒業後、ハーバード大学大学院へ進みます。ここで経営学修士号、経済学博士号をとり、その後、ハーバードの教壇に立ち、1982年にはハーバード大学正教授に迎えられました。現在は、同大学の教授に与えられる最高職位ウィリアム・ローレンス卿ユニバーシティ・プロフェッサーの地位にあります。

 なお、プリンストン大学時代には、ゴルフの選手としてもならし、アメリカチームのメンバーとしても選ばれたという意外な横顔ももちます。


経営戦略論のバイブル

『競争の戦略』


 ポーターが一躍脚光を浴びるきっかけになったのは、彼がハーバード大学の正教授になる2年前、1980年に発表した『競争の戦略』(ダイヤモンド社)の出版によってです。同書は、世界17カ国で翻訳され、四半世紀以上たったいまでも、経営戦略論のバイブルとして読み継がれています。

 この本は、「①経営者が自分の置かれた競争環境を正しく理解し、②その環境が将来どのように変化するかを 正しく予測し、③強固な市場地位をもたらしてくれる競争の仕方を選ぶ 」という点を主眼にしています。とはいえ、競争戦略の抽象的な概念論を展開しているのではありません。

 原典のタイトルが『競争の戦略——業界および競合を分析するための技法』であることからもわかるように、方法論の解説に主眼を置いています。つまり、ビジネスの現場で実際に使える手法とその活用法を具体的に記しています。

 一般に同書は難解な書物と見られがちですが、技法解説書ととらえると、その敷居はぐんと低く感じるはずです。同書で解説されている手法は、全部で8種類です。次の通りです。


①ファイブ・フォース(五つの競争要因)

②三つの基本戦略

③業界内部の構造分析

④競争者分析のフレームワーク

⑤マーケット・シグナル

⑥競争行動

⑦業界の進展・変化

⑧買い手と供給業者に対する戦略


 この中でも、特に有名な技法が「ファイブ・フォース」と「三つの基本戦略」です。以下、前者のファイブ・フォースについて解説しましょう(三つの基本戦略については第7講を参照してください)。




ファイブ・フォースで

業界内の競争環境を分析する 


 ポーターは、企業が有利に競争を展開するには、業界内の競争環境を正しく分析することが極めて重要だと指摘します。というのも、業界内のあり方が、企業の戦略に大きな影響力をもつと同時に、競争ゲームのルールを左右するからです。

 そして、この業界内の競争環境を正しく分析するツールとして考案されたのが、ファイブ・フォースです。別名「五つの競争要因」、また単に「5F」と呼ばれることもあります。

 ファイブ・フォースでは、次の五つの競争要因から業界を分析します。


①新規参入業者

②競争業者

③代替品

④供給業者(売り手)

⑤買い手


 これら五つの競争要因を図にしたのが図表1です。皆さんの会社は、この中の「②競争業者」の箱内にあると考えてください。


図表 1 ファイブ・フォース(五つの競争要因)

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 さて、この五つの競争要因から、あなたの会社に競争圧力がかかります。それが、チャートに示された五つの矢印で、それぞれ下記のような名が付いています。


①新規参入の脅威

②業者間の敵対関係

③代替製品・サービスの脅威

④売り手の交渉力

⑤買い手の交渉力


 ここに示した五つの競争圧力が、その業界の競争環境を左右します。つまり、圧力が強いほど、業界内の競争環境は激しさを増します。たとえば、②業者間の敵対関係が強まれば、業界内の競争環境が激化するのは当然です。

 しかしそれだけではなく、たとえば①新規参入の脅威が強まれば、ライバル企業が増加しやすいわけですから、これまた業界内の競争は激しくなるでしょう。他の要因についても同様のことが言えます。

 このように、ポーターは、これら五つの要因と、そこから生まれる圧力とによって、その業界の競争環境が決定されると指摘しています。

 一般に我々が業界を分析する場合、競争業者ばかりに目がいくものです。ファイブ・フォースを用いることで、単に競争業者を分析するよりも、広い観点から業界を分析できることが分かると思います。

 また、ファイブ・フォースを分析することで、業界内における自社のポジションも理解しやすくなるでしょう。さらに、その業界で最も大きな影響力のある競争要因(ポーターはこれを「競争の第一要因」と呼びます)についても把握できるでしょう。そうすれば、今後企業がどのような戦略をとるのが得策なのかも、明らかになってきます。

 そのためにも、五つの競争要因がもつ、個々の特徴について、あらかじめ理解しておくことが重要です。


五つの競争要因がもつ

それぞれの特徴を理解せよ


①新規参入の脅威

 最初の分析では、あなたの業界が、どの程度新規参入の脅威にさらされているのかを調べます。

 新規参入とは、業界に新たに参入する可能性のある企業を指します。そもそも、その業界に新規参入の脅威がどれくらいあるのかは、大きく二つの要素によって決まります。

 ひとつは「参入障壁」の大きさです。参入障壁が大きいほど、新規参入の脅威は小さくなります。

 具体的な参入障壁としては、「規模の経済」「製品差別化」「巨額の投資」「仕入れ先を変えるコスト」「流通チャネルの確保」などがあります。

 もうひとつは、「既存業者の報復」です。新規参入した際に、業界内の既存業者から受ける報復が大きいと予測されるほど、新規参入の脅威は小さくなります。

 したがって、皆さんの会社が、参入障壁が高く、既存業者の報復も厳しい業界で、一定のポジションを確保していれば、少なくとも新規参入者に対しては、競争を優位に進められるわけです。


②既存競争業者間の敵対関係の強さ

 次に、既存業者間での敵対関係を分析します。業界内の敵対関係が強くなり、結果、競争が激しさを増す要因には、さまざまなものがありますが、ポーターは次の七つの要因を掲げています。

①同業者が多いか、似た規模の会社がひしめいている

②業界の成長が遅い

③固定コストまたは在庫コストが高い

④製品差別化がないか買い手を変えるのにコストがかからない

⑤キャパシティの増加が小刻みにはできない

⑥競争業者がそれぞれ異質な戦略をもつ

⑦戦略が良ければ成果が大きい

⑧撤退障壁が大きい

 これらの要因の度合いが大きくなるほど、業界内の競争は激しさを増します。こうした敵対関係の強さを決める要因は、時間の経過とともに変化することにも要注意です。

 なお、上記要因の⑧撤退障壁が大きいについては、若干補足を加えておきましょう。

 撤退障壁とは、既存企業に業界内からの撤退を拒む要因です。たとえば、その業種用に特化された資産は、撤退障壁の典型です。

 ポーターは、この撤退障壁と、先にふれた参入障壁とをセットでとらえます(図表2)。図に示したように、すでに業界に参入している企業にとっては、「参入障壁大、撤退障壁小」という環境が、競争を抑制する上で、最も都合が良いということになります。

 また、参入障壁・撤退障壁双方が小さい業界に参入して、その後参入障壁を高くすることで、有利な競争条件を確立する手も考えられます。


図表 2 参入障壁と撤退障壁

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③代替製品・サービスの脅威

 業界とは「互いに代替可能な製品をつくっている会社の集団」と定義できます。こうした代替可能な製品やサービスが、業界の外から現れる脅威が大きいほど、業界の競争は激しくなります。これが、代替製品・サービスの脅威です。

 たとえば、音楽CDと携帯電話は、まったく別物の製品です。しかし、両者を「時間を消費するツール」と見ると、相互代替可能な製品として競合することがわかります。実際、音楽CDは、携帯電話の普及によって、売り上げが落ちたと言われます。これなどは、携帯電話という代替製品の圧力により、競争が激化した結果と言えるでしょう。

 ポーターは、代替品を見つけ出す行為を「現在の製品と同じ機能を果たしうる他の製品を探す 」ことと定義しました。その上で、注意すべき代替品として、①現在の製品よりも価格性能比がよくなる傾向をもつ製品、②高収益を上げている業界が生産する製品を挙げています。


④買い手の交渉力

 買い手とは、業界から製品やサービスを購入する者、いわば顧客を指します。買い手が業界に対して強い力を行使できるとき、その業界の競争は自ずと激化します。

 ポーターは、買い手の交渉力が強くなる要因として、次の六つの要因を指摘しました。

①買い手が集中化していて、売り手の総取引量にとってかなり大量の購入をする

②買い手の購入する製品が、買い手のコストまたは購入物全体に占める割合が大きい

③取引先を変えるコストが安い

④売り手の製品が買い手の製品やサービスの品質にとってほとんど関係ない

⑤買い手が十分な情報をもつ

⑥消費者の購入決定に影響力が行使できる場合

 これらの要因が強くなると、買い手の交渉力は高まり、業者に対して値引きを強要したり、業者同士を競わせたりするようになります。


⑤売り手の交渉力

 売り手とは、その業界に製品やサービスを提供する人々のことで、「供給業者」と言い換えられます。売り手の地位が高いほど、業界の競争は激しさを増します。

 売り手の交渉力が高まるケースとしては、下記があります。

①売り手の方が買い手の業界より集約されている

②買い手業界が供給業者グループにとって重要な顧客ではない

③供給業者の製品が、買い手の事業にとって重要な仕入れ品である

④差別化された製品のため、他の製品に変更すると買い手のコストが増す

⑤供給業者が今後確実に川下統合に乗り出すという姿勢を示す

 たとえば、パソコンのOS市場で絶大な力をもつマイクロソフト社は、パソコンメーカーに対して、明らかに上記①、③、④の要因をもっていることがわかると思います。ために同社は、パソコンメーカーに対する交渉力が高まり、業界の競争を熾烈にする要因として働きます。


ファイブ・フォース分析から

自らの競争戦略を構築する


 ファイブ・フォースによる分析で、その業界の構造を分析すると、どのような競争要因で業界が動いているのかを把握できます。そして、自社の立場と、業界の全企業に影響を及ぼすファイブ・フォースを比較することで、自社の強さや弱さを明らかにできます。

 そして、こうした長所や短所をふまえて、企業の競争戦略を立案していくことになります。ポーターは、効果的な戦略を「五つの競争要因ごとに防衛可能な地位をつくり出すために、攻撃あるいは防御のアクションを打つこと 」と指摘しました。そして、防衛可能な地位を確立する具体的な行動として、次の三つを掲げています(図表3)。

①業界の競争環境に企業の長所や短所を適合させ、最良のポジションを作る

②競争要因のバランスに努める

③変化をうまく利用する

 以上がファイブ・フォースによる競争環境の分析と戦略立案の基本です。ファイブ・フォースは会社レベルのみならず、事業部単位や製品単位にも利用できます。また、自分自身の個人的な戦略を練る上でも、使えるツールといえるでしょう。


図表 3 ファイブ・フォースから戦略を策定する

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参考文献

マイケル・ポーター著、土岐坤、中辻萬治、服部照夫訳『競争の戦略』(1982年、ダイヤモンド社)

中野明『マイケル・E・ポーターの「競争の戦略」がわかる本』(2005年、秀和システム)

© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2016