第7講 
アイデアを発想するための基本スタンス①
ジェームス・W・ヤングのアイデア発想法

『これでわかるビジネス戦略講座[2]』収録


CONTENTS

必ず押さえたい、 『アイデアのつくり方』

アイデア発想が 難しく感じられる理由

アイデア発想、 その基本中の基本

基本スタンスがもつ 大きな効果

基本スタンスから アイデア発想の実践へ

書棚は脳みその延長 だと肝に銘じよ

マーキング、書き込み、 付せんの活用

要素間の関連性を見つけ出す能力を磨く



必ず押さえたい、

『アイデアのつくり方』


 一般に、アイデアの発想というと、「偶然のなせる技」と考える人が多いのではないでしようか。しかし、アイデア発想には、発想のための体系や基本スタンスがあると考えるべきです。

 そして、これらの点について語る上で、ジェームス・W・ヤングの名は決して忘れられません。

 ヤングは、米ケンタッキー州カビングトン生まれで、配送係や事務員、速記者、セールスマンなど、さまざまな職業に就いた後に、広告会社J・ウォルター・トムプソン社に入社しました。そして、コピーライターとして活躍した後、1917年には同社副社長に就任しています。

 ところが、42歳で引退し、世界漫遊の旅へ出るという、少々変わった経歴を持ちます。その後、シカゴ大学の教授として教壇に立つ他、アメリカ広告代理業協会会長、アメリカ広告審議会会長などを務めました。1973年に帰らぬ人となっています。

 このジェームス・W・ヤングには、アイデア発想のバイブルとも呼ばれる著作があります。『アイデアのつくり方』がそれです。本文はたった62ページながら、その中身は体系的なアイデア発想の指針がほぼ網羅されています。

 以下、ジェームス・W・ヤングの考えをベースに、筆者の経験も踏まえながら、ビジネス・パーソンが身につけるべきアイデア発想の基本スタンスについて解説しましょう。また、ヤングの本は文章も平易なので、本稿と併せてお読みになられることをお勧めします。




アイデア発想が

難しく感じられる理由


 冒頭でもふれたように、一般にアイデアの発想は、偶然のなせる技と考えられがちです。これと同様に、アイデアは無から有を生み出すこと、とも捉えられているのではないでしょうか。

 実は、この二つの先入観が、アイデア発想の大きな障害になっています。まず、前者の「アイデアの発想は偶然のなせる技」を真だと考えると、そもそもアイデア発想の努力をしても労多くして益なしということになります。そしてそれならば、「アイデアは寝て待つ」ことが、最善策になってしまいます。

 とはいえ、ビジネスの現場で何かアイデアを発想しなければならない時、常にデッドラインが存在します。それにも関わらず、アイデアを寝て待っているのでは、あまりにもリスクが大き過ぎます。何らかの体系的な手法を身につけておき、それを実践することでアイデア発想することが重要になることは言うまでもありません。

 次に後者の「アイデアは無から有を生み出すこと」ですが、これはアイデアを発想する上で、さらに大きな障害となる可能性があります。というのも、この考えを前提にすると、アイデア発想は極めて困難な作業、誰か特殊な人にしかできない活動のように思えるからです。

 こうなると、アイデアの発想に身構えてしまい、アイデア発想がさらに困難になる、という悪循環に陥ってしまいます。この悪循環が、アイデア発想をより困難にする、大きな理由の一つになります。


アイデア発想、

その基本中の基本


 一方、アイデアは、決して何もないところから新たなものを生み出すことではないと断言したのが、先のジェームス・W・ヤングに他なりません。ヤングは『アイデアのつくり方』の中で次のように述べています。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。 

 つまり、アイデア発想とは、ゼロから何かを創り出すのではなく、すでにある要素を組み合わせることこそが、その本質だとヤングは明言したわけです。例えば、ギリシアの数学者アルキメデスによる浮力の発見も、アイデアが既存の要素の新しい組み合わせに過ぎないことを、如実に示しています。

 ある日アルキメデスは、シチリア島シラクサの王から、「この王冠が確かに純金でできているかどうか傷をつけずに調べよ」という命令を受けました。アルキメデスは解決方法を考えますが、なかなか妙案が浮かびません。

 気分転換にお風呂につかることにしたアルキメデスは、その時、浴槽からこぼれ落ちる湯を見て、突如アイデアを思いつきます。すなわち、水を満たした容器に王冠と金細工師に与えた金とを、交互に入れ、あふれ出した水の量をはかることで、王冠が純金かどうかを調べられると考えたわけです。

 解法を発見したアルキメデスは、「ユリイカ! ユリイカ!(eureka/われ発見せり)」と叫びながら、シラクサの街を裸で駆け回ったというのは、あまりにも有名な話です。

 このようにアルキメデスは、「王冠が確かに純金かどうか」という問いに対して、「浴槽からあふれる湯」という既存の要素を組み合わせて、新たなアイデアを生み出したわけです。決して、ゼロから新しいアイデアを創り出したわけではないのです。


基本スタンスがもつ

大きな効果


 アイデアの発想を「既存の要素の新しい組み合わせ」を発見することと捉えると、思いがけない効果をいろいろと得られます(図表1)。


図表 1 アイデア発想の基本スタンスとその効果

image001

 


 第一に、アイデアは無から生まれるという先入観を取り払うことができます。そもそもこの先入観が、アイデア発想を難しくしている主要因の一つです。これを取り払うことができるのですから、その効果は非常に大きいと言わざるを得ません。

 また、アイデアの発想が既存の要素の組み合わせに過ぎないのならば、自分にも容易にアイデアを発想できる、という気持ちになるものです。つまり、アイデア発想の敷居を押し下げる効果もあるわけです。

 加えて、アイデア発想はしょせん組み合わせと考えると、仮に良いアイデアが生まれなくても、「そのうち発想できるに違いない」という、良い意味での楽観論が芽生えてきます。これにより、デッドラインが以前ほど気にならなくなり、結果、あまり焦ることなくアイデア発想を進められます。

 このように、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせに過ぎない」を、アイデア発想の基本スタンスにすると、アイデア発想に対して身構える必要がなくなり、よりリラックスした状態でアイデア発想活動に打ち込めるようになります。そして、その効果は予想外に大きいものです。


基本スタンスから

アイデア発想の実践へ


 とはいえ、ヤングの言葉はアイデア発想の基本スタンスについてふれているに過ぎません。これを肝に銘じたからといって、アイデアが泉のように湧いてくるわけではありません。

 そこで、ヤングの言葉を基本スタンスにアイデア発想を実践するには、少なくとも次の2点への配慮が不可欠です(図表2)。

 ①組み合わせのための在庫を豊富にする

 ②要素間の関連性を見つけ出す能力を磨く

「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせに過ぎない」と考えたならば、そもそもその基本となる「既存の要素」が、手元に在庫として蓄積されている必要があります。

 つまりこの既存の要素は、知識とも言い換えられるでしょう。


図表 2 基本スタンスとその実践

image002

 


 知識の在庫が空ならば組み合わせの可能性はゼロですし、乏しければ組み合わせのパターンは少なくなります。斬新な発想も期待薄となるでしょう。そのため、よりよいアイデアを発想するには、常日頃から知識の在庫を豊富にすることが重要になります。

 では、何を実践すれば、知識の在庫を豊富にできるでしょうか。やはり、最も重要になるのは経験でしょう。例えば、ある特定の分野で豊富な経験を積めば、人にはない自分だけの知識を充実できるでしょう。この在庫をうまく利用すれば、他人が思いつかないアイデアを発想できる可能性が高くなります。

 また、旅をすることも経験を豊富にする有力な手法になります。建築家・安藤忠雄さんは著作『建築を語る』の中で、「20代に、私はひたすら、自分を取り巻く現実世界の『価値観』とは異なる『何か』を求めて旅を続けました。私は旅のなかで考え、成長してきたといっても過言ではありません 」と、語っています。

 安藤さんの言う「現実世界の『価値観』とは異なる『何か』」を得るということは、知識の在庫を豊富にする行為の言い換えに他なりません。世界各国で数々の賞を受賞した安藤さんの創造性の原点は、案外ここにあるのかもしれません。


書棚は脳みその延長

だと肝に銘じよ


 経験と併せて重要になるのが読書です。仮に経験が組み合わせの在庫を充実する唯一の手法だとすると、経験を積める時間が長かった年長者が常に有利になります。そういう意味で読書は、若年者が短時間で組み合わせのための在庫を豊富にし、年長者に伍するための、極めて有力な手法になります。

 アイデア発想という観点からの読書で注意したいのが、「本は自腹で買う」という原則です。そもそも、読み終えた本の内容を全て記憶できる人などいないでしょう。読了後は、何となくあの本にこんなことが書いてあったという、ぼんやりした記憶だけ残るのが一般的だと思います。よって、頭に入れきらない情報は、本の中に眠ったままになります。そして、これを必要に応じて取り出せるようにしておくことが、アイデア発想には欠かせません。


図表 3  書棚は脳みその延長である

image003

 


 この役目を担うのが書棚です。書棚は、頭に入りきらない既存の要素を蓄積しておく場所とも言い換えられます。つまり、アイデア発想の観点からすると、「書棚は脳みその延長」なのです(図表3)。そして、脳みその延長である書棚を充実させるには、やはり書籍は自腹で購入しなければならない、ということになります。

マーキング、書き込み、

付せんの活用

 また、書棚に収める書籍には、ちょっとした工夫を施しておくと、組み合わせの要素としての活躍の幅が広がります。

 まず、書籍の中で注意すべき箇所や気になった箇所には、蛍光ペンでマーキングするということです。また、思い付いたことがあれば、書き込みも積極的に行います。

 これに加えて、マーカーや書き込みをした箇所には、付せんを貼り込みます。これで自分が重要だと思った箇所に、素早くアクセスできるようになります。

 ただ、本を汚すのはいやだという人もいるに違いありません。しかし、アイデア発想を前提に考えた場合、本を汚す行為は避けられないと考えるべきです。そもそも、読んでしまった本の内容は、記憶から急速に薄れます。そして、先にも書いたように、何となくこんなことが書かれていた、というのが記憶の片隅に残る程度になります。

 一方、ある発想テーマがあった際に、なんとなく関連情報があの本に書いてあったのでは、と思うことがしばしばあります。そうしたら、タイトルをインデックスに書棚から目的の本を取り出します。

 するとその本には、付せんが貼り付けてありますから、その本を読んだ時に重要だと思ったページにすぐアクセスできます。つまり、書棚にストックされた本の中から、必要なページにスムーズにアクセスするための手段が付せんというわけです。

 さらに、付せんを頼りに開いたページには、マーカーや書き込みがしてあるはずです。つまり、ページ内の必要な箇所にアクセスする手段が、マーカーや書き込みというわけです。

 そして、マークした重要箇所だけ読んでいくと、ここから得てして既存の要素の新しい組み合わせの材料になる情報を発見できるものです。このように、書棚、付せん、マーカー、書き込みを利用して、組み合わせの在庫を整理しておくと、アイデア発想の頼もしい武器になるものです。

要素間の関連性を見つけ出す能力を磨く

 組み合わせのための在庫を豊富にする活動と同時に実践すべきなのが、要素間の関連性を見つけ出す能力を磨くことです。

 先に、流れ出る湯から解法を見つけ出したアルキメデスの逸話について紹介しました。しかしアルキメデスがぼんやりと流れる湯を見ていたならば、解法を見つけ出すことは不可能だったでしょう。発想テーマと異なる物事の間に、ある関連性を見つけ出せたからこそ、解法が得られたわけです。言い換えると、要素間の関連性を見つけ出す力が欠かせない、ということです。

 この点についてヤングは、次のように述べています。

既存の要素の新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きいと言うことである。 

 この力を高めるには、発想テーマ、すなわち問題を常に考え続ける態度が極めて重要になるというのが筆者の考えです。

 確かに、関係性を見つけ出す力には才能もあるでしょうが、基本は問題をどれだけ徹底的に考え抜くかです。やはり、こうした地道な努力なしに、よりよいアイデア発想は得られないと考えるべきです。

 以上、本稿ではアイデア発想の基本スタンスと、これを実践するための二つの活動について紹介しました。

 また、第10講では、ジェームス・W・ヤングや他の先人達が明らかにしたアイデア発想のための基本手順について解説します。これすなわち、アイデアの発想をより明確に体系化することに他なりません。こちらも併せて参照してください。





参考文献

ジェームス・W・ヤング著、今井茂雄訳『アイデアのつくり方』(1988年、阪急コミュニケーションズ)

安藤忠雄『建築を語る』(1999年、東京大学出版会)

中野明『今日から即使えるビジネス発想法50』(2007年、朝日新聞出版)

© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2016