第6講 
これでわかる行動経済学①
小数の法則と大数の法則

『これでわかるビジネス戦略講座[2]』収録


CONTENTS

不合理な人間を前提にして 経済を考える

小数の法則に 騙されてはダメ

大数の法則を EXCELでシミュレーション

RAND関数とIF関数の 絶妙コンビネーション

赤か黒かを 繰り返して実行する



行動経済学とは

何なのか?


 ハワード・S・ダンフォード著『不合理な地球人』(朝日新聞出版)という、面白い本を見つけました。行動経済学を入門者向けにわかりやすく解説したものです。

 本講座No.048では、ExcelのIF関数にふれましたが、偶然にも同書には、このIF関数を使ったシミュレーションが紹介されていました。

 少々興味を覚えたので、本稿では同書を参考に行動経済学についてふれつつ、IF関数のさらに発展的な使い方について述べたいと思います。

 ということで、まず、行動経済学とは何か、この点から話を始めましょう。

 行動経済学とは文字どおり経済学の一分野で、心理学の研究を援用しながら、伝統的な経済学では説明できなかった現象を理論化することを目指すものです。

 伝統的な経済学では、経済活動の主体である人間を合理的な存在としてとらえてきました。合理的な存在とは、感情に左右されることなく徹底して利得を追求する人間像と考えてよいでしょう。

 たとえば、ここに10万円があるとしましょう。皆さんはこの10万円を受け取れる権利があります。

 しかし、一つ条件があって、そのうちいくらかを私に分け前として配分しなければなりません。そして、その分け前の額に私が納得したら、皆さんは10万円から分け前を差し引いた金額を手に入れられます。私も分け前を手にできます。

 でも、私が分け前の額に納得しなかったら、皆さんは何も得られません。私も分け前を手にできません。

 さて、このような条件の場合、皆さんは私に対していくらくらいの分け前を提示するでしょうか? 先を読む前によく考えてみてください。

不合理な人間を前提にして

経済を考える 

 いかがですか。答えは出ましたか。では、分け前を提示してください。私が拒否したら何も手に入れられませんから、慎重にどうぞ。

「分け前は半分の5万円!」

 なるほど。これは公平な考え方ですね。これだと提示額に対して拒否する理由は私にはありません。では、皆さんは5万円、私も5万円で取引成立です。

 いかがでしょう。多くの人も、だいたい5万円前後を分け前に考えたのではないでしょうか。仮に半々でなくても、私への分け前が4万円、皆さんが6万円と、あまり大きな差がないようにしたはずです。

 というのも、提示額があまりに低すぎて、私が拒否したら何も手に入らないからです。極端な話、欲張って分け前を千円などと提示したら、私は何だかバカにされたような気になって、拒否権を発動していたに違いありません。

 立場が逆ならば、皆さんも同様の行動をとるに違いありません。しかしです。合理的な人間を前提とする伝統的な経済学では、私たちのこうした行動を、極めて「不合理」だと判断します。

 それを確かめてみましょう。まず、私たちは、利得を徹底して追求する合理的な人間だと仮定します。これを前提にして、皆さんは私に分け前として千円を提示したとします。私はどう反応するでしょう。合理的な存在である私は拒否権を発動しないでしょう。

 なぜなら、拒否権を発動したらせっかく得られる千円を得られなくなるからです。徹底的に利得を追求するのなら、私の配分が千円で、皆さんが残り9万9千円を手にするとしても、私は甘んじてそれを受け入れることになるでしょう。


図表 1 合理的な人間と不合理な人間

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 しかし、この「合理的な人間像」は、私たちの一般的な感覚から大きくずれています。伝統的な経済学を前提にすると、人は千円でも納得するかもしれません。が、一般常識を前提にした場合、おそらく納得する人はほとんどいないでしょう。

 つまり、今回の例のように、千円を提示されたら拒否権を発動するという人間の一般的な行動は、伝統的な経済学では説明できない現象なわけです(図表1)。

 従来の経済学は、こうした現象をアノマリー(例外)として扱ってきました。しかし従来の経済学には、このアノマリーがあまりにも多すぎたんだすね。これでは具合が悪い。

 そこで、伝統的な経済学では説明のつかない人間の不合理な行動について、それを心理学的な見地も念頭に置きながら、理論的に説明する試みがなされるようになりました。これが行動経済学に他なりません。




小数の法則に

騙されてはダメ


 冒頭で掲げた『不合理な地球人』では、こうした私たち人間の不合理な行動を多数集めて、それを問題形式で提示しています。同書からその一例を示しましょう。

 今、皆さんは、ラスベガスのカジノでルーレットに興じています。カジノで最もシンプルな賭け方は、赤に賭けるか、黒に賭けるかでしょう。ここでは、赤と黒の出る確率はいずれも1/2だとします。

 その場合、次に示す3通りのうち、最も出やすいと考えられるのはいずれでしょうか。


 ①赤黒赤黒黒赤黒

 ②赤赤赤黒黒黒黒

 ③黒黒黒黒黒黒黒


 ①はどちらかというと赤と黒がまんべんなく出ています。②は前半が赤で後半が黒、③に至っては黒ばかりです。さて、どれが最も出やすそうでしょうか。えいやっ、で答えてみてください。

「①が最も出やすそう!」

 と、答えた人はいらっしゃいますか。というか、そう答えた人が結構多いのではないでしょうか。

 赤と黒の出る確率が1/2というと、赤と黒がまんべんなく出るように思えます。しかし、1回目の結果が2回目の結果に影響を及ぼすことはありません。各回は独立しています。

 よって、毎回赤と黒の出る確率は1/2ですから、①〜③とも出る確率は全く同じです。計算すると1/2を7回掛け合わせた確率ですから、いずれも1/128になります。

 そもそも確率では、サンプル数(母数)が小さいと、理論上の確率からかけ離れた結果になることがしばしば起こります。このような傾向を「小数の法則」と呼びます。その典型が黒ばかり出ていた先の③ですね。

 小数の法則が人間の判断を狂わせることがあります。たとえば、次の例を見てください。


 ①赤赤赤赤赤赤赤

 ②黒黒黒黒黒黒黒


 問題です。①と②で、次に赤が出る確率が高いのはどちらでしょう。

 このような問いに対して、「黒ばかり出ているから②に決まっている」などと答えてはいけません。次に出る赤か黒は、過去の結果に左右されません。確率はいずれも1/2です。よって、次に赤が出る確率は①でも②でも全く同じです。

 しかし、小数の法則によって結果が偏ると、その偏りが次の結果を左右するように錯覚しがちです。そのため、赤ばかり続けて出ていたら「次は黒」と思いがちですし、逆に黒が続いていたら「今度こそ赤」と、私たちは考えてしまいがちです。

 これは極めて不合理な考え方です。しかし、人は得てしてそのように考えるものです。合理的な人間像からはかけ離れていますね。


大数の法則を

EXCELでシミュレーション


 それはともかく、実際、サンプル数が大きくなるに従って、その結果は理論上の確率に近似します。この現象を「大数の法則」と呼びます。ハワード・ダンフォードの『不合理な地球人』では、この大数の法則を具体的に示すために、ExcelのIF関数を利用しています。

 再現してみましょう。実はIF関数を使うと、Excelに「赤」や「黒」という文字を1/2の確率でランダムに表示できます。これに工夫を凝らせば、母数が増えるに従って、結果が理論上の確率に収れんしていく様子をシミュレーションできます。

 これを実際に行うには、IF関数とは別の関数を使う必要があります。乱数を発生させるRAND関数です。

 乱数とはランダム(無規則)に発生させた数字のことです。Excelではこの乱数をRAND関数で作れるようになっています。

 試しにExcelのシートに次のように入力してください。

 =RAND()

 あるいは、「数式」タブの「数学/三角」ボタンから「RAND」選んでも構いません。

 RANDのお尻についている「()」は、引数を書き込むカッコです。中には何も書き込みません。つまり、RAND関数は引数を持たない、一風変わった関数なのです。

 では、「=RAND()」と入力したら、[Enter]キーを押してください。はい、「0.420905624」のような数字が現れたはずです。これが乱数です。

 そして、ランダムに現れる数字ですから、皆さんの結果が、私と同じ「0.420905624」とは限りません。

 それでは、[F9]キーを押してください。これを押すとシートの内容が再計算されるようになっています。すると、乱数の値は、先とは異なるものに変化します。キーを押すごとに値は変わります。

 いずれの数字も「0.・・・・・・」で始まる小数になっているはずです。これはRAND関数が、0以上1未満の数をランダムに表示するからです。

 でも、このRAND関数と、「赤」「黒」にどんな関係があるのか。このように思う人がいるでしょう。実はこのRAND関数とIF関数を組み合わせると、「赤」や「黒」を1/2の確率でランダムに表示できます。


RAND関数とIF関数の

絶妙コンビネーション


 繰り返しになりますが、RAND関数は、0以上1未満の値をランダムに発生させます。では、この0以上1未満を半分に分けたとしましょう。

 一方は「0〜0.499999・・・」、もう一方は「0.5〜0.9999・・・」になります。これをIF関数の引数「論理式」に活用できないでしょうか。

 そうです。例えば、「乱数が0.5以上ならば赤、でなければ黒」というようにです。これをうまく数式化できれば、赤と黒を1/2の確率でランダムの表示できるはずです。実際にやってみましょう。

 図表2を見てください。まず、A1セルを選択しました。そして「数式」タブの「論理」ボタンから「IF」選び、「関数の引数」ダイアログでIF関数式を組み立てているところです。

 まず、引数「論理式」です。ここには「RAND()>=0.5」と入力しました。この意味、わかりますか。そうです。「RAND関数で発生させた値が0.5以上ならば」という意味です。

 そして、この論理式が真の場合は「赤」と表示させましょう。引数「真の場合」に「赤」と入力します。そして、「偽の場合」のテキストボックスにカーソルを置いてください。

 はい、「赤」が自動的に「"(ダブルクォーテーションマーク)」で括られました。No.048でふれたように、文字列は「"」で囲まれるからです。

 最後に、引数「偽の場合」には「黒」と入力しましょう。以上で、「RAND関数で発生させた値が0.5以上ならば赤、それ以外(0.5未満ならば)黒を表示する」というIF関数式が完成します。

 「OK」ボタンを押してみましょう。見事、「黒(または赤)」と表示されます(図表2下)。ちなみに、『不合理な地球人』では、もう少し手の込んだ方法を紹介しています。どのような方法かは、実際に同書で確かめてください。 


図表 2 IF関数とRAND関数を組み合わせる

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A1セルに「=IF(RAND()>=0.5,"赤","黒")」と入力する。図は「関数の引数」ダイアログを用いて数式を完成させているところ。RAND関数による乱数の値によって、「赤」または「黒」になる。[F9]キーを押すと再計算が行われる


赤か黒かを

繰り返して実行する


 それでは[F9]キーを押してください。IF関数式内の乱数が書き換わり、その結果に従って、「赤」か「黒」かに変化します。よって、たとえば[F9]キーを100回押して、「赤」「黒」の結果を記録していけば、双方の出る確率が1/2に近くなるのがわかるでしょう。

 でも、キーを100回押して記録をとるのなんて面倒ですよね。次の方法をとりましょう(図表3)。


図表 3 赤と黒の数を比較する

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A列には100行目まで「=IF(RAND()>=0.5,"赤","黒")」の数式をコピーした。また、B2とC2セルでは、A列に表示された赤と黒の個数を計算している。計算にはCOUNTIF関数を用いた。書式は「=COUNTIF(範囲、検索条件)」だ



 まず、A1セルをクリックして、セルの右下にできたハンドルをA100までドラッグします。そうすると、A1に設定したIF関数とRAND関数を組み合わせた数式を簡単に複写できます。そして、個々のセルで計算が実行されて「赤」または「黒」が自動的に表示されます。

 では、ランダムに表示された「赤」または「黒」がいくつあるのか勘定しましょう。もちろん計算するのは私ではなくコンピュータです。

 図表3の、B2セルを見てください。「=COUNTIF(A1:A100,"赤")」と入力しました。これはCOUNTIF関数というもので、指定した範囲(ここではA1〜A100)の中で、条件(ここでは赤)に該当する値の個数を返す関数です。これでA1からA100の中で、「赤」となっているセルの個数を一発で計算できます。

 もちろんC2セルは「=COUNTIF(A1:A100,"黒")」にすれば、「黒」の個数を計算できますね。

 では、[F9]キーを何度か押してみてください。押す毎に、A列の「赤」と「黒」が書き換わり、個数もダイナミックに変化します。

 個数はめったに50対50にはなりません。だいたい40いくつ対50いくつくらいではないでしょうか。場合によっては30いくつ対60いくつになることもあるでしょう。

 現在の母数は100です。それでも赤と黒が出る比率は1対1にはなりません。しかしこの母数を200、300、1000と増やしていくと、その比率は限りなく1対1に近づきます。すなわち、大数の法則ですね。

 人は確率のことなどあまり深く考えずにものごとを判断しがちです。ここにも「不合理な人間」の行動が見て取るというわけです。 





参考文献

ハワード・S・ダンフォード『不合理な地球人』(2010年、朝日新聞出版)

友野典男『行動経済学』(2006年、光文社)

ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳『予想どおりに不合理』(2008年、早川書房) 

マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳『経済は感情で動く』(2008年、紀伊國屋書店)

中野明『Excelで学ぶゲーム理論』(2010年、オーム社)

© Akira Nakano pcatwork.com 1999~2016