4. 腕木通信にまつわる驚きの事実

 巨大な通信ネットワーク、とんでもないスピードで駆け抜ける信号——。腕木通信にはこれら以外にもまだまだ知られざる事実がたくさんあります。以下、その一部をご紹介しましょう。

●テレグラフは腕木通信を指す固有名詞だった
 「テレグラフ」といえば、普通、ツー・トンの「電信」あるいは「電信機」をイメージしますよね。ところが、このテレグラフの語源を遡ると、何とクロード・シッャプが開発した腕木通信機に行き着くのです。つまり本来テレグラフとは、腕木通信機を指す固有名詞だったのです。それが、時代が経るにしたがって意味が転化し、「テレグラフ=電信」が一般化したわけです。

●ナポレオンの勢力拡大の裏に腕機通信あり
 腕木通信はフランス革命の最中に誕生しましたが、その後政権の座についたのはかのナポレオン・ボナパルトです。さて、このナポレオンも腕木通信の実力にことのほか注目しました。そしてナポレオンは政権にいたわずか15年ほどの間に、2000kmにも及ぶ腕木通信網の拡張工事を行います。これにより、パリとヴェニスが腕木通信で結ばれることになるのですから、いやはや驚きです。

●時計職人ブレゲとの深い関係
 腕時計の著名メーカーのひとつにブレゲ社がありますが、この会社を創設したのが、知る人ぞ知る天才時計職人アブラアン・ルイ・ブレゲ(1747〜1823)。そして、腕木通信の機構部の設計にはこのブレゲが協力しています。ちなみに明治政府になって日本が最初に導入した指字電信機(別名ABC電信機)は、アブラアン・ルイ・ブレゲの孫にあたるルイ・クレメント・ブレゲが製作したものです。

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図8:ブレゲが設計協力した腕木通信装置(筆者撮影)

●腕木通信時代にもネットワーク犯罪は存在した
 ネットワーク犯罪といえばインターネットを思い浮かべる昨今ですが、すでに腕木通信時代にもネットワーク犯罪が存在しました。有名なものには、1836年に発覚した腕木通信を用いた株式詐欺事件があります。フランスの作家アレクサンドル・デュマは、この事件をネタにしてエピソードを「モンテ・クリスト伯」に挿入しているほどです。

●腕木通信は現代通信ネットワークの起源である
 現代の通信ネットワークを名乗るには、情報を伝送の「速度」「量」「広さ」の点で一定レベルをクリアしなければなりません。この一定水準を最低レベル最初にクリアしたのが、どうやら腕木通信であるようです。したがって腕木通信は、現代通信ネットワークの起源と呼べるわけです。
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